実体験を盛り込んだマタニティ・小児歯科講座の第七講目です。
寒さが厳しくなってきて外に出るのも勇気がいる毎日ですね。
風邪やインフルエンザの流行も心配な時期でもあり、妊婦さんや小さなお子さんがいるご家庭は特に気を使いますね。
私も、妊娠中ようやく安定期を迎えたときは寒い時期で、極力人込みを避けていました。
家に滞在がちなときだからこそ、むし歯予防をしっかりできる時間をとりたいですね。
今回は、マタニティ期にできるむし歯予防について、キシリトールを焦点に当ててお話ししたいと思います。
昔から、妊娠したお母さんはむし歯になりやすくなるといわれます。
赤ちゃんに歯の栄養やカルシウムをとられてしまう、といわれますが科学的根拠はありません。
ほんとうは、お母さんのお口のなかが、むし歯や歯周病にかかりやすい状態になってしまうのです。
甘いものばかり食べたくなったり、間食の回数が増えたり、また「つわり」の気持ち悪さのためについ、歯磨きを怠ってしまったりします。
歯科衛生士の資格を持つ私でも、妊娠中は甘いものの間食が増えてました。
妊娠中のお母さんのお口のなかは、むし歯の格好の標的です。
そのためフィンランドでは、お母さんが妊婦さんの時から虫歯予防の指導を行っているそうです。
むし歯予防の先進国フィンランドで、妊婦さんにむし歯予防の指導が行われるのには、もう一つ大きな理由があります。
実は、お母さんのむし歯は、赤ちゃんにうつってしまうのです。
現在では、むし歯は「むし歯原因菌(糖分を分解して歯を溶かす酸をつくる菌)」による感染が原因であることがわかっています。
特に「ミュータンス菌」という原因菌が、口の中にうつり、繁殖することで、むし歯がおこりやすくなるのです。
生まれたての赤ちゃんの口の中には、むし歯原因菌はありません。
まわりの大人が、だ液を介してうつしてしまうのです。
お母さんにむし歯が多いと、赤ちゃんもむし歯になりやすいという研究も報告されています。
研究1) 2) 3)では、お母さんが100%キシリトールガムを噛むことで、その人のお口の中の虫歯菌がすくなることがわかったのです。
その研究では、虫歯菌の母子伝播(お母さんから赤ちゃんへうつること)を予防するために母親が妊娠期からキシリトールガムを1日4回以上(実際には、平均2.9回)摂取することで、3カ月後には母親自身の虫歯菌が減ったのです。
しかも、その後もキシリトールガムの摂取を1年間つづけると、噛むのをやめてもしばらくは虫歯菌は減ったままなのです。
さらにキシリトールの効果についてですが、
虫歯にならないだけの甘味料であれば、他にもいろいろありますが、虫歯予防を考えるとキシリトールが最も効果的です。
その働きは以下の3つであり、これらすべての効果を備えているのはキシリトールだけです。
① 虫歯菌(ミュータンス菌)の数を減らす。
糖類をえさとするミュータンス菌はキシリトールを取り込んでも、生きていくエネルギーにすることができず死んでしまいます。
日常的にキシリトールを摂取することにより、ミュータンス菌の数が減っていくのです。
② 歯の再石灰化を助ける。
ミュータンス菌は砂糖をえさにして、酸を作り出します。
この酸によって、歯が溶けていくことを脱灰といい、その結果虫歯になります。
だ液には酸をなくそうとする治癒力があり、それを再石灰化といいます。
キシリトールをえさにできないミュータンス菌は、酸をつくることもありません。
酸性度が下がらなければ、歯の表面は脱灰を起こしません。また、だ液による再石灰も効率的にはたらく環境になるのです。
③ だ液がたくさんでていいことがいっぱい。
キシリトールのひんやりとした甘さ(冷涼感)と、ガムを噛む効果で、だ液の出る量が多くなります。
だ液は再石灰化とともに、虫歯菌を洗い流す効果(自浄作用)もあります。
だ液が増えることはお口の中では、いいことだらけなのです。
とはいうものの、ガムだけでは完全な虫歯予防は難しいです。
一度、歯医者さんにて歯科検診をすることをお勧めします。
こちらは歯科専用の100%キシリトールガムです。
歯の再石灰化を促進するフノランやリン酸カルシウムも市販のガムの1.5倍含まれています。
※注意していただきたいのが、市販のキシリトールガムを買うときは、キシリトール100%の物を選んでください。
それ以外の物には、水あめなどが含まれており、虫歯の予防に役立たないものもあります。
余談ですが、市販されているキシリトールガムの中には、発がん性が疑われる物質(アスパルテーム)が含まれているものがあります。
記載されている要綱を確認して下さいね。
キシリトールはガム以外にもタブレットもあります。
藤村歯科クリニックでは、ご紹介いただいた患者さんにこちらをお渡ししています。
もちろん、ご要望があれば どの方でもご購入できますのでお気軽にお声掛けくださいね。
参考文献
1) 仲井雪絵 他:小児歯誌 43(2):259, 2005 (抄)
2) 仲井雪絵 他:小児歯誌 44(2):218, 2006 (抄)
3) 仲井雪絵 他:小児歯誌 46(2):218, 2008 (抄)
タブレットもガムもあくまで補助的なものです。
食生活と毎日の歯磨きが一番重要です。
そして、妊娠中は体調の変化が日々変わります。
私も、キシリトールガムを噛んでさっぱりした日もあれば、逆に気持ち悪くなることもありました。
無理のない範囲で取り入れてむし歯予防をしていただけたらと思います!