歯科衛生士がお話しする歯の講座の第129講目です。
朝晩、涼しくなってきましたね。
トンボの姿も見かけるようになり秋の到来ですね。
さて、噛む効力につて前回からお話ししています。
今回もその続きです。
噛まなくなったことで、形態・機能にも影響が出ている
最近では「噛む○○」といった食品をよく耳にします。
時間がなくても手軽に空腹を満たせる食品として、働き盛りの若年層を中心に人気がありますね。
エネルギーも栄養もすべてが飲料として、あるいはゼリー、錠剤として飲み込むことで、食事の時間ロスをなくそうという発想でコマーシャルされています。
これらの商品こそ、咀嚼を必要としない究極の食事(嚥下食)です。
嚥下食は、脳血管障害の後遺症などでうまく噛めない人が代替として摂取する補助栄養や介護食の位置づけであれば納得できますが、噛める人が噛まずして飲み込むだけの食習慣として定着すると、知らないうちに咀嚼機能が退化していくのは当然のことといえます。
こうした習慣により、顎は十分に発育せず、生じた顎の発育不全が次の世代に継承されていきます。
その結果、現代人では、骨格は華奢で細長い顔貌となり、虚弱化した口腔の形態的ならびに機能的な異常が増えているのです。
噛まない食習慣が続いた成れの果ては、宇宙人の顔貌をイメージしてしまいませんか?
咀嚼は、人間が生まれてから死ぬまでにみられる発達と減退の過程においても変化します。
たとえば、加齢により口腔機能が衰退すると、徐々に咀嚼は困難となり、特に硬いものや繊維質のもの、弾力のあるものが食べづらく、品数が限定されると食事の楽しみも半減します。
また、咀嚼力が低下した高齢者は、食事中に十分な食塊形成がでいないまま、がんばって嚥下しようとするために、誤嚥や窒息に陥るリスクが高まることが危惧されています。
さらに咀嚼ができなくなり、食べにくい食品のあるものは、循環器疾患による死亡率が1.8倍、呼吸器系疾患による死亡率が1.9倍に上がるとされています。
こうした背景も踏まえて、昨今高齢者の食支援について関心が高まる中、嚥下について取り沙汰されることが多くなりました。
しかし、そもそも嚥下の段階である咀嚼がうまくできなければ、嚥下もしづらいのです。
したがって、咀嚼の目的は「嚥下しやすい食塊を作る」ことであるともいわれています。
「噛むことの大切さ」については、なんとなくわかってはいるものの、実際には咀嚼の目的や意義については難しいものです。
次回からは、噛むことの効用について考えていきたいと思います。