歯科衛生士がお話しする歯の講座の第140講目です。
12月も中旬となりあっという間に日々が過ぎていくようです。
寒さも厳しくなり体調管理に気を付けて過ごしていきましょう。
さて、今回は歯のこぼれ話をしたいと思います。
「30回噛みましょう」の起源
今から100年以上前、アメリカに時計商を営むホーレス・フレッチャーという人物がいました。
彼は相当なお金持ちで無類の美食家でもあり、日々世界中からさまざまな食材を取り寄せ、専従のコックを雇い美食を堪能していました。
その結果、極度の肥満から40歳の若さで半病人となってしまいます。
自分の生い先をおそれた彼は、生命保険に加入しようと申し込みますが、審査条件となる身体検査がクリアできず、加入を拒否されてしまうことになります。いろいろな健康法を試すものの、うまくいかず絶望の淵にいた彼は、当時のイギリスで首相を務めていたウィリアム・グラッドストンの言葉と出会います。
「天は、私たちに32本の歯を与えたから、いつも32回噛むようにしている。
これを子どもたちにも言い聞かせ、守らせるようにしている」という名言です。
フレッチャーは、この教えを信じて実践するうちに、みるみる体重が減少し、健康な体に回復しました。
食生活を改善し、ゆっくり味わいながらよく噛んで食べれば、食事量も少なくて済むのです。
これを世に広めたフレッチャーの評判は高く、「ガツガツ食べないでフレッチャーのように食べなさい」という標語が流行したくらいでした。
没後、わが国においても彼の経験をもとに「完全咀嚼法」(大日本生活協会、1940)が出版され、「30回よくかんで食べましょう」という30回噛みの起源になったといわれています。
食べ物をよく噛むこと、つまり「咀嚼」ということが、口腔保健の面ばかりでなく全身の健康にも大きな影響を与えることがわかってきたといわれています。
その効用は、
- 噛む刺激によって唾液や胃液の分泌を促進し食物の消化吸収を助けます。
- よく噛んでゆっくりと食事をすることにより血液中の血糖値の高まる時間が生じ、満腹中枢を刺激し、過食・肥満を予防します。
- 食物を味わうことにより、心理的満足感、情緒的豊かさを感じ、ストレスを解消します。
- 顎の動きが脳の血液量を増加させ、知的発達を促進し、老化の予防につながるといわれています。
皆さんは30回噛めているでしょうか?